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2012.12.11 黒須敏行
サーバー代が払えない時代を乗り越え上場したクックパッドの成功譚~クックパッドビジネスモデル研究~
こんにちは、黒須敏行です。
私は料理が好きでクックパッドでよくレシピを探しては、美味しそうで簡単に作れ、かつ後片付けが楽そうなものをせっせとお気に入りに登録するという所帯染みた趣味があります。
通常の会員だとお気に入りに残せるレシピの数に上限があるため、プレミアム会員にもなっています。プレミアム会員はお気に入りでレシピが並び替えられますらね。クックパッド最高!
今日はそんなクックパッドのレシピのなかで私のマイ・ベストを紹介しようと・・って違いますね(汗)
クックパッドは今でこそ上場をして大きな成功を収めているウェブサービスのひとつですが、当初は運営のためのサーバー代を捻出することも難しかったような長い暗黒時代がありました。
そんなクックパッドは何がきっかけとなり、今日のような成功を収めたのでしょうか?今回はクックパッドのビジネスモデルを解説することでウェブサービスの収益化の方法を理解することがゴールです。
・現在のクックパッドの財務状態
・成功のターニングポイント
・成功を下支えしたクックパッドのウェブマーケティング
という章立てで進めましょう。
■現在のクックパッドの財務状態
リブセンスのビジネスモデルの解説を別の媒体で紹介しましたが、その際上場企業の営業利益の平均は4%という話をしました。クックパッドも例にも漏れず50%近い営業利益率になっています。まあそもそもウェブサービスは仕入れがあまりかかりませんからね。
ウェブサービスの稼ぎ方というのは2ちゃんねるを作った西村博之さんが3つの方法しかないと解説をしていますが、それが
・ユーザー課金
・企業広告
・物販
の3つです。この3本柱をバランスよく育てることがウェブサービスの課金化の大事なポイントです。クックパッドの売上の構成比をこの3つに当てはめてみましょう。
みてもらうと広告と有料のユーザー課金率が二本柱になっています。クックパッドのプレミアム会員のビジネスモデルは2008年からスタートしたものですが、実は2005年に500円の有料課金を半年間行なっていたことがありました。
その機能は2ヶ月間で廃止し、ユーザーに全額返金をしています。その間に有料課金の価値をユーザーは受け取っていたことに変わりありませんので本来返金する道理はありません。
クックパッドはユーザに対しての高い義侠心ともいうべき、自己犠牲的精神が非常に高いのが特徴です。返金はユーザーの期待を裏切ってしまったことに対しての責任を強く感じた結果だったのでしょう。その筋の人がけじめをつけるために行う儀式がありますが、そういった意味合いが多分に含まれているように思えます。
クックパッドはこういった極端ともいうべきユーザー中心思想が成長のドライブでも足枷にもなっていました。そんなクックパッドが大きく跳ねた要因が企業広告の獲得でした。
■成功のターニングポイント
クックパッドのこれまでの道のりは上阪徹さん著作の「六〇〇万人の女性に支持される「クックパッド」というビジネス」に詳しく書かれています。
この本の中で絶賛されているのはクックパッドの持つユーザー思考のユーザビリティ、高いテクノロジーですが当初クックパッドは全くといっていいほど儲かっていませんでした。1997年に創業され、2004年頃までは、コストをいかに増やさないかに苦心していたことが書かれています。2004年に入社した小竹貴子さんによると
「正直に申し上げますが、入社したときの給料は月5万円でした(笑) 中略 ユーザーはすでに100万人近い状態でした。知人からは”儲かっていない会社だよ”とは聞いていましたが、そこまでとは思わなくて、私自身もびっくりしました」
成功のターニングポイントは”営業と企画の力”です。本のなかでクックパッドが有料課金と企業広告型のビジネスモデルの狭間で揺れ動いているときに、大手広告代理店出身の営業担当者森下満成さんが入社しクックパッドにとって質の高い企業広告がガンガン入る様子が描かれています。
凄まじいユーザー数を抱えていたクックパッドに企業広告のオファーはこれまで多くありました。それでも代表の佐野さんはクックパッドの理念とそぐわないクライアントには出稿を拒否していました。
またそもそもクックパッドと相性がよさそうなナショナルクライアントには「クックパッド」という名前が認知されていないという課題があったのです。
この営業担当者の森下さんはその二つの課題を解決するため当初一年間は安くても構わないので成功事例をひたすら集める期間と位置づけ、代理店に名前を覚えてもらうように奔走します。
元々サイトとユーザーの質が非常に高かったため、広告効果も高くクライアントの継続出稿とともに様々な広告商品が開発されていきました。
今でこそ有名になったレシピコンテストやスポンサードキッチンと呼ばれるメーカーが作ったレシピをユーザーに作ってもらうというタイアップ広告商品が呼び水となりクックパッドは大きく成長します。
また2008年から始まったユーザー課金はいまでは収益の6割を稼ぎだす規模になりました。代表の佐野さんは元々料理は主観的なものであり、それをランキングにするという発想が変であると考えており実施していませんでした。それでもユーザーからの要望が多く課金制にしたという経緯があります。
これは企画力ですね。経緯を見てもらえばわかるとおり営業と企画がクックパッドの成長のポイントです。
■成長を下支えしたクックパッドのウェブマーケティング
この上阪徹さんの本のなかで非常に興味深いと思った点はクックパッドはこれまで集客のための広告宣伝を一度も行ったことが無いということです。広告を打たないでどうやって人が来るのか?という話ですが、これはSEO対策によって解決しています。
クックパッドのSEO対策は凄く、自然検索からの流入が凄まじすぎてサーバー代が工面できない時代にとったエピソードが思わず「マジで?」とつぶやくものでした。何かというと彼らはトラフィックを抑えるために、検索結果のランキングを下げるためのSEO対策を行なっていたことが書かれています。
SEO対策というものは本来集客数を増やすためのものですが、減らすためにSEO対策をやったという話はクックパッドぐらいしかないのではないでしょうか。
また仮説を持ったうえで、何度も何度もユーザビリティテストを実施したということを語っています。ユーザビリティテストとはユーザーにサイトを使ってもらい、その様子を観察することでサービスの課題を明らかにするという改善方法です。本当に良いサービスはFAQなどがなくてもわかるものであるということを語っており、これをクックパッド内では機能を無言語化すると表現しています。クックパッドには「無限実行」「必ず値段をつける」「機能の無言語化」というモノ作り3原則がありますが、強い組織にはこういった共通言語がつきものですね。
これらを達成するためにユーザビリティテストを実施し、改善するというプロセスを継続的に行なっておりこの改善体制がクックパッドの強みの一つになっています。
■まとめ
検索エンジンからの凄まじいトラフィックと、流入したユーザーが全く不満に思わない高いユーザビリティを元々兼ね備えていたクックパッド。
このサービスが営業によって大きく成長したというのは、パッと見地味ながらも非常にポテンシャルを持ったメガネ女子がある日突然学校一の美女になるという少女漫画的展開を想起するところがあります。(妄想乙ですね)
ウェブサイトはそれを支えるテクノロジーももちろん大事ですが、ビジネスを成功させるためには営業が何よりも重要であることはこのクックパッドの成功までの道のりが語っています。
2ちゃんねる創始者の西村博之さんはグーグルというサービスの成功要因をこのように話しています。
グーグルの検索システムがすごいのは、論文において引用される数が多いほど素晴らしい論文であるという100年前から学会でいわれている論理を、検索に応用できると気づいたというアイディア。つまり企画力です。
そして、検索などのアルゴリズムを考えだし、ほかの会社が追いつく前にサービスを普及させたという営業力がすごいのです。本当にプログラムの技術を理解している人で、グーグルの技術力がすごいと言っている人は、少なくとも僕の周りにはいません。
http://systemincome.com/13327
クックパッドの成功までの経緯やこの言葉を見てもウェブサービスを成功させるために営業と企画という要素は無くてはならないものでしょう。
営業をどうやって成功させるかというのはもはやウェブサービスの話ではないのでこの場所では説明はしません。次回はクックパッドの凄まじいトラフィックの根源であるSEO対策を解説します。
またこの場所でお会いしましょう!
出典 上阪徹 『六〇〇万人の女性に支持される「クックパッド」というビジネス』(角川SSC新書,2009年)
※この記事は公開された情報をもとに作成しています
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